SMBC日興証券が、大量の買い注文を入れる「株価操作」で起訴されたが、証券会社のレーティング公表は、「株価誘導」に該当しないか?
株式取引において、作為的に株価を誘導する行為は取引の公平さを損なうものとして堅く禁じられており、この事件は、株価決定のために不正に大量買い発注をして株価形成を操作したとして金融商品取引法違反で起訴されました。
一方、日常的に行なわれている証券会社のレーティング公表による「買い推奨」や「目標株価○○円」などは、目的に株価誘導的恣意性があれば、「株価誘導」と類似性があり、市場での価格形成に大きく影響を与える上では、この事件と同様の違法性があるものと思われます。
まして、証券会社の顧客の為のもの、或いは、證券会社の利を得るためのものであれば、株価誘導の意味を持つことになるのではないでしょうか?
Ⅰ.SMBC日興証券、株価操作金取法違反で検挙
SMBC日興証券は、大株主から引き受けた大量の大正製薬株を転売する(ブロックオファーと言う)ために、売り出し価格の株価形成の為に大量買い注文を入れる金融証券取引法違反で検挙されました。
問題の取引 前日終値7030円だった同社株は、売り出し価格が決定される当日の取引において、6600円まで下落し引けでの株価形成に不成立の恐れが生じた。このため、取引間際に6600円で合計10万株の買い注文を入れ終値6620円の引け値を成立させた。 |
(終値の株価形成の為、見せかけを含めた証券会社による大量発注行為)
1.證券会社による株価操作は、非常に重い罰が適用される
市場の仲介役として公正性が求められる大手証券による株価操作は、市場の公正を害するものとして、非常に重い罰則が定められています。
当該担当者には、法定刑で10年以下の懲役、もしくは、1000万円以下の罰金または併科が科せられます。
また、従業員らが違法行為を犯した場合、法人にも、7億円以下の罰金が科せられる「両罰規定」を設けられおります。 |
2.「株価操作」とは、相場形成を人為的に変動させ他人を誤認させる行為
「株価操作」とは、株式市場において相場形成を人為的に変動させ、他人を誤認させ、相場の変動を利用して自己の利益を図るものです。
株価操作の手口には
株価操作の手口については、様々なものがありますが、わかりやすく整理されているSBIネオモバイル証券の次の紹介記事をご覧ください。
⇒「相場操縦的行為とは - SBIネオモバイル証券」
簡単に抜粋して紹介すると、株価操作とは、相場操縦的行為を言い、類型化すると次のような分類に分けられます。
見せ玉 | 特定株の売買が活発であると思わせる目的で、売買の意図がないのに発注・取消・訂正を繰り返す行為。 |
仮装売買 | 特定株の売買が活発であると思わせる目的で、売買の意図がないのに同時期に同価格で売買両方の発注する行為 |
馴合売買 | 特定株の売買が活発であると思わせる目的で、知り合い同士が約束し、同時期に同価格で反対の売買注文を行う行為。 |
終値関与 | 特定株の終値を高く又は安くすることを目的として、立会終了間際に、直近価格よりも高い又は安い価格で終値を形成させる取引。 |
買い上がり、売り崩し | 特定株の価格を意図的に高く又は安くする事で、あたかも相場が上昇又は下降していると誤解させ取引を誘引する行為。 |
作為的相場形成 | 他の投資家の取引を誘引する目的がなくても、取引状況から実勢を反映しない相場を作為的に形成した取引。 |
風説の流布 | 特定株の相場変動を図ることを目的に、証券取引や上場会社等に関する事実関係の確認されていない情報や合理的な根拠に基づかないうわさを掲示板等を利用して流布すること。 |
その他相場操縦的行為等 | ・株価固定(安定操作取引) ・高値安値形成 ・売買高関与 |
Ⅱ.証券会社のレーティングは、株価誘導の一種では?
証券会社各社から、毎日のように個別銘柄のレーティングが公表されていますが、このレーティングは、その目的を突き詰めると、証券会社による「株価誘導」いわゆる「株価操作」に該当する恐れはないのでしょうか?
証券会社が発するレーティングは、投資家の投資判断に大きな影響を与え、当該銘柄の株価を動かす要因となっていますが、証券会社の公表するレーティングは、証券会社にとって、レーティングに沿った株価の動きを予想或いは期待したものであることには間違いありません。
従って、レーティングに沿った株価の動きを期待する思惑が証券会社にあるとすれば、レーティングは、證券会社による株価誘導策そのものとなります。
1.調査内容を付さず「買い推奨」「目標株価○○円」のみの社外公表は「株価誘導」では?
証券会社は、機関投資家などの顧客向けに、独自の企業調査を行い投資の参考になる企業情報をレポートして提供しています。
しかし、レーティングは、単に「買い推奨」「売り推奨」「目標株価○○円」などと、まるで株価の適正水準を明示するが如き表記になっています。
レーティングの根拠となる経営状況等の詳細に一切触れることなく、単に「買い推奨」や「目標株価」のみの明示は、いささか、作為的な要素が入り易く、証券会社の顧客への利益に資するものであっては一種の株価誘導に相当すると思われます。
2.証券会社のレーティング公表は、顧客のみに限定すべきでは?顧客の後にオープンにする目的に疑念は?
証券会社の企業調査やアナリスト分析による個別銘柄のレーティング公表は、各証券会社の顧客に提示すれば良いと思えます。
顧客には、レーティングの根拠となる調査内容を提示し、顧客が自己責任で判断できるようにすべきではないでしょうか?
3.レーティングは個人投資家の銘柄選びに大きく影響を与えるが結果に証券会社の責任はなし
証券会社のレーティングは、個人投資家の銘柄選びを大きく左右し投資結果に大きく影響を与えているが、証券会社は、レーティング結果に一切、責任はなし!
無責任なレーティングの乱発は、野放図に見過ごされて多用されていることに日本証券取引所はどう感じているのか知りたいものですね!
Ⅲ.証券会社のレーティングに対する留意点
証券会社の発するレーティングで株価が大きく動きますが、レーティングの「買い推奨や売り推奨」「目標株価○○円」を信じて銘柄投資をすると思わぬ痛手を被ることになりかねません。
参考にする際に、留意すべきことを下記します。
1.レーティングは、単なる一つの見方に過ぎない
レーティングは、証券会社のアナリストの一つの見方に過ぎず、そういう見方もあるのかなとして捉えることです。
他社のアナリストと全く正反対もあり得ますし、時すでに遅しの場合もあり得ます。
2.環境変化の方が大きくあくまでも短期的な視点で捉える
レーティングは、少なからず株価変動に影響を与えることが多いが、株価の状況によっては、織り込み済みであったり、逆のレーティング公表があったりで、レーティングと逆の動きがおきることも多々あることを肝に銘ずべしです。
特に、証券会社のレーティング情報は、公表される前から株価には織り込まれている場合が多くあります。
また、レーティング評価は途中で変わることもあり、情勢が変われば、レーティング評価も変わります。
従って、多方面のレーティングに注意するか、全く無視するかの判断も必要。
Ⅳ.最後に
証券会社が、個別銘柄について、「買い推奨」「売り推奨」「目標株価○○円」などとレーティングを公表することは、多分に、株価誘導の意味合いがあるのではないでしょうか?
名だたる証券会社であれば、余計に一般投資家の判断を動かすことになります。
それによって、レーティング通りの株価の動きをしないで大きな損失を背負う場合も生じています。
各証券会社での顧客へのレーティング提示と一般への公表とのタイムラグはないのでしょうか?ないとすれば、証券会社は何の目的で社外に公表するのでしょうか?
不可解な中で、各証券会社は、レーティング公表を競っていますが、レーティング公表によって、作為的に株価を誘導する行為は、取引の公平さを損なうことにはなっていないでしょうか?
いろいろ疑問がありますが、現実には、レーティングが公表され、それによって株価は動いています。
ことほどさようにレーティングの問題性を頭においた上で、レーティング情報を咀嚼して、株式投資の銘柄選びや売買時期のタイミングなどの判断材料にしていただきたいと思います。
あくまでも、レーティングには、証券会社の思惑が働くことを知って、各社レーティングを判断されるようご留意願います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ーーーーーーーー 完 ーーーーーーーーー
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